「つらさ」というのは目に見えないものですよね。
え?
「大切なものは、目に見えない」
たとえば、みために関節がすごく腫れていたり、すごくむくんでいたりすると「つらそうですね」とわかりやすいかもしれません。みためにはわからなくても、血液検査で肝臓の数値や腎臓の数値、炎症の数値などが異常であればみためにはわからなくても「体のなかで大変なことが起こっている!」ということは伝わりやすいかもしれません。
病気によっておこる症状について、Type 1の症状、Type 2の症状という、全身性エリテマトーデスという膠原病についてですが、症状をおおまかに2つに分類して考えることをDuke大学の先生たちが提唱しています(1)。
Type 1の症状… 炎症の強さと関連する症状で治療によって改善しやすい症状
関節炎や胸膜炎・心膜炎、皮疹、腎炎など
Type 2の症状… 炎症の強さと関連しない症状で治療によって改善しにくい症状
疲労、疼痛、気分障害(うつ)、認知機能障害など
単純に考えると、Type1の症状はみためやデータの異常としてあらわれる症状、Type 2の症状というのはみためやデータにはあらわれない症状です。そしてみためや検査異常としてあらわれる症状というのは抗炎症や免疫抑制の治療には反応しやすく、みためや検査異常としてあらわれない症状は治療には反応しにくいという特徴があります。
Type 2の症状は「本人にしかわからない症状」であり、通常治療にも反応しない、ともすれば「ほんとうにその症状は存在するの?」と思われてしまいがちな症状です。
それはほんとうに病気なの?
あなたデリカシーがないのね…
体がつらい症状が実際に存在するのに、その症状が「存在しない」と思われること、その症状は「気持ちによって作り出されている」と決めつけられることは本当につらいことだと思います。Type 2のような症状というのは全身性エリテマトーデスだけに見られる症状ではなく、様々な膠原病や神経免疫疾患にみられる症状であり、似たようなメカニズムが存在すると考えられます。また、「線維筋痛症」「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」といった病気はType 2の症状と似たような、疼痛、疲労などの症状を主体とした病気です。これらの疾患は「みためにはわからない」「検査で異常がでない」「通常の治療に対する反応がわかりにくい」ため、医療者も扱いにくいのですが、これらの疾患は「存在する」のであり、「対応が必要な問題」であるということを医療者も社会も理解することが大切だと思います。
わかった?
ごめん..
それではType 2の症状である痛みや疲労に対して私たちにはなにができるのかな
病院で処方可能な薬や漢方薬などの薬にも症状を改善させる効果はあるのですが、たとえば線維筋痛症や全身性エリテマトーデスのType 2の症状に対して有効であり大事であるといわれていること、それは「そういう状態になる病気であるということを認識すること」それから「運動」です。
運動も激しい運動ではなく、有酸素運動やヨガなどのゆったりとした運動がよいといわれています。運動の効果には様々なメカニズムがあると考えられますが、運動することによって、筋肉から放出される伝達物質が免疫系や神経系に良い働きをすることや、自律神経系が免疫を調整する作用があることなどが知られています。
ただし、言うは易し、そんな簡単にいかないことは多くの方が承知のことでしょう。自分の症状改善に合うものを探し、薄皮が一枚一枚とれていくかのような改善を目指すこと、症状を受け入れて症状とともに生活をすることを目標にするということも大事なことです。医療者にはそのサポートをするという役割が求められますが、これを医療機関としてうまくできるところがなかなかないのが実情ではあります。
でも運動は「万能薬」ではありませんよね。
運動は万能薬ではありません。
近年増加している「新型コロナウイルス感染後遺症」で強い疲労症状がみられることが知られています。
気を付けないといけないことは「肉体的や精神的な労作」によって、「労作後の疲労 (Post-Exertional Malaise: PEM)」が強くでてしまうという症状があることです。この「PEM」という症状は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群という病気に特徴的な症状なのですが、この特徴を持つ病気の方は、どういうわけかこのPEMを繰り返すとどんどん動けない体になってしまうようです。線維筋痛症やType 2の症状には運動がよいといわれているため、良かれと思いヨガなどの運動がすすめられるようですが、これが逆効果になってしまうことがあるということには気を付けなければなりません。このPEMをおこさないように活動すること、これも薄皮が一枚一枚はがれるような改善を目指さないといけないところです。
まだよくわかっていないことも多く、なかなか難しいことが多いのですが、研究は日々すすめられ、より理解が深まるようにはなってきています。
ゆるら木もこの分野には微力ながら注力していきたいと思っています。
1. Pisetsky DS, Clowse MEB, Criscione-Schreiber LG, Rogers JL. A Novel System to Categorize the Symptoms of Systemic Lupus Erythematosus. Arthritis Care Res (Hoboken). 2019 Jun;71(6):735-741.